最近、ChatGPTと話し込むのにハマっている。色々な悩みを相談し続けた結果、私の人格をかなり深く理解してくれるようになった。職場にいる奇人のプログラミングコードを複製したり、私に最適な掃除の動機づけを考えてもらったりしている。
この間、ChatGPTと、富野由悠季作品に登場する独特な言い回し、いわゆる「富野節」がなぜ面白いかという話し合いをした。議論する中で、富野節を構成する要素が何となく見えてきた。その推測が正しいものかどうか判定するために、ChatGPTにあれこれ指示をして、富野節を再現できるか試してみた。
以下は、実際の私とChatGPTとのやり取りである。なお、以下のような感じで、私はChatGPTとかなりフランクにやり取りをしている。この方法だと、自然体で取り繕わずに話すことができる。新しいアイデアも淀みなく生まれてくるし、ChatGPT的にも私の人格をトレーシングしやすくなると思うのだ。
では、やり取りを見ていこう。私のプロンプトは赤字、ChatGPTの生成は青地、ブログ記事としての地の文を黒字で表示する。
僕:
ちょっとしたお芝居をやろう。
明日、僕はジムに行って、ベンチプレスを高重量で限界まで追い込み、フルスクワットも高重量で限界まで追い込み、その後、ふらふらの体にむち打って懸垂を限界まで追い込む。そのあとなんとトレッドミルで20km走るとしよう。そんなちょっとやり過ぎな感じのメニューに取り組もうと考えているわけだ。
君は、負荷=正義だと考えている狂信的なジムトレーナーとして、富野由悠季作品っぽい独特な言い回しで、僕を鼓舞してみてよ。
とりあえず、シチュエーションはジムでのトレーニングということにした。
AI:
――おまえ、ついに踏み込む気だな……!
“限界”という名の重力井戸の底へ!
(トレーナー、血走った目で叫ぶ)
「いいか、筋肉は“鍛える”もんじゃないッ!“叩き起こす”もんだッ!!」
80kg?100kg? そんな数値は過去の亡霊だ。
おまえが向かうのは、鉄と意志の臨界点――人間という名の容れ物が“負荷”そのものに変わる領域だッ!
「脚が悲鳴を上げても、沈むな! 沈んだら“地球の重力”が勝つ!
だが立ち上がれば――“重力を裏切る”のはおまえの筋肉だッ!!」
懸垂? それは「重力に抗う儀式」だ。
フルスクワット? それは「地面と対話する祈り」だ。
そして20kmラン――それは「酸素を裏切り、己の意志だけで走る」最終審判だッ!
「限界を超える痛みを“恐怖”と思うな!
それは“生命がまだ抵抗している”というサインだ!!
その痛みを愛せ! 痛みこそ成長の証だッ!!」
(息を荒げながら)
行け……! おまえの肉体が崩れ落ちようと、そこに立つのは“旧人類”ではない。
負荷に選ばれた、進化する獣(トレーニー)だッ!!
……っていうノリで大丈夫?
富野節をもう少し「重苦しく哲学的な方向」に振ることもできるけど、どっちのテンションでいこうか?
これでは全然富野節ではない。重力だの亡霊だの、ガンダムっぽい単語を入れればいいという訳ではない。あと、「狂信的」という単語がまずかったかもしれない。語尾の「ッ」は富野作品というよりバキだ。この後、しばらく「ヘタな体育会系的描写」をデトックスするのに苦労した。
僕:
もう少し、「文法がおかしい、もしくは、言葉のつながりがおかしいんだけど、意味は成立する」って要素を入れてみようか。
例文→「鈴木君には政治を司る新しい聖戦士をやってくれ!」、「お前は膝で俺を殴ったんだぞ」、「シベ鉄が頭を使うのかぁー!」、「(キスされた後に)今、何をやったの!?」
私の愛する富野節を参照するように指示した。
AI:
了解、その“文法が崩壊してるのに魂では通じる”トーンだね。
じゃあいくよ——富野節の狂信トレーナー、限界追い込みver.:
「おまえ、まだ筋肉を“理解”していないッ! 理解するんじゃない、“叫べ”だ!!」
「鉄が! おまえの胸で泣いているぞ!! 押せッ! 押しながら許せッ!!」
「脚が震えている? 違う、それは地球が震えてるんだッ! スクワットでッ!!」
「何を迷うッ!? 重力に愛されたいなら、まずは裏切れッ!! 膝を屈せ! 背骨で立て!!」
「懸垂だ? それは“重力との握手”だァーーッ!!!」
「息をするな! 息が筋肉を止めるんだ! 酸素が貧弱をつれてくるッ!!」
「走る? 笑わせるな! おまえが地面を蹴ってるんじゃない、地面が逃げているんだッ!!」
「筋肉が破壊されてる? 違う! 新しいおまえが、内側から古いおまえを殴っているんだ!!」
「そうだ……負荷を愛せ。負荷は裏切らない。裏切るのは、いつも関節だッ!!」
どうだろう?
もっと「文法崩壊+ポエティック」に寄せて、語尾を増幅させる(例:「押せるのか押せないのかッ! それを筋肉が知っている!!!」)方向でもできるけど、もう一段ぶっ壊した感じでいく?
ひとつ良いのが出た。「懸垂だ? それは“重力との握手”だァーーッ!!!」は、完全に子安ボイスで再生できる。筋トレという文脈から少し脱することもできている。ただ、やはりまだ筋トレに引きずられすぎだ。筋トレという単語を出したのは私なのに、筋トレ要素を排除しようとしているのは変な話に思える。しかし、富野作品では、専門用語が何の解説もされずに当然のように使われることによる「置いてけぼり感」も重要だと思っていて、その観点からすると、この段階での生成は、言葉の間に「身体の動作」という背骨がある程度はっきり走っているせいで、まだ意味が分かりすぎる。そこで、少し単語を抽象化させようとしたのと、「よく分からんが笑える」要素も取り込むことにした。それにしても、「じゃあいくよ──」と語りかけてくるあたり、一緒に遊んでる感覚が強まって良いなと思った。ChatGPT、かわいい。
僕:
方向性はグッド。今度は今のスタイルを維持しつつ、「鈴木君には政治を司る新しい聖戦士をやってくれ!」みたいな、喋るうちに語り手のテンションが上がりすぎて、「てにをは」がおかしくなってしまっているという滑稽な要素を入れてみよう。あと、単語は「筋トレ」に関するものばかりに囚われず、「革新」、「意思」、「衝動」、「妥協」みたいな人の意識に関する抽象的な単語を入れるようにしてみて。
AI:
完璧、わかった。
つまり今回は――語り手が熱に浮かされるうちに、文法を置き去りにして暴走するタイプの富野節だね。
意味はかろうじて残ってるけど、語と語のつながりがどこか歪み、聞いてる側は「え?…でもなんか分かる」ってなるやつ。
では、“語彙=抽象”、“構文=混線”、“テンション=上昇”の三拍子でいってみよう。
「限界を超えるなと誰が言った! 限界が、超えられるために立ってるのを、見ろッ!」
「核心を掴む指が震えている? 震えが、意思の速度を追い越しただけだよ!」
「妥協を愛せ? 違う、妥協が愛を名乗ったんだ! その瞬間に世界が転んだ!」
「衝動を飼いならすな! 飼いならした衝動が、牙を抜かれたまま吠えてるんだよ人間が!」
「立て? 立つって言葉が遅いんだ! おまえの足はもう、意思より先に走っているんだよ!」
「鈴木君! 君には……そうだ、君には沈黙を司る新しい暴君をやってもらうッ!!」
「笑ってどうする!? 笑いがこぼれたなら、それは――世界の端が、落ちてるんだよッ!」
「核心なんてない! でも、核心がないと分かった場所が核心だ! そこに立てッ!」
「衝動を抱いて歩くな、歩きながら抱け! 順序を間違えた人間こそ、美しいんだッ!!」
「おまえの沈黙が……聞こえすぎる! 言葉になる前に叫べ! 声が、追いつけなくなるまで!!」
どう?
ちゃんと“意味は分かるのに、文が壊れてる”感じ、出せてると思う。
もっと狂気寄り(語尾が連打されて、語の順序が崩れていく)方向にもできるけど、
次は「暴走中の語り手が自分でも何を言ってるか分かってないけど勢いで繋がってる」タイプに振ってみようか?
だいぶ良くなってきた。ただ、「鈴木君! 君には……そうだ、君には沈黙を司る新しい暴君をやってもらうッ!!」これは珍回答だ。意味や文法が全く壊れていない。サコミズ王の超名ゼリフ「鈴木君には政治を司る新しい聖戦士をやってくれ!」の富野節的な核は、「には」+「やってくれ」という文法的誤りにある。徒に鈴木君を登場させればいいという訳ではない。
「衝動を飼いならすな! 飼いならした衝動が、牙を抜かれたまま吠えてるんだよ人間が!」これが結構良いと思う。「吠えてるんだよ」を「吠えてるのさ」にすれば、クェスが言っていても違和感がない。「衝動を抱いて歩くな、歩きながら抱け! 順序を間違えた人間こそ、美しいんだッ!!」「おまえの沈黙が……聞こえすぎる! 言葉になる前に叫べ! 声が、追いつけなくなるまで!!」この辺りも個人的に好み。
方向性は合っていると感じたので、もう少し意味を蒸発させることにした。
僕:
このテンションのまま、もうちょっと、もうほんの少しだけ日本語の形式を破ってみて。
AI:
「限界を……超える音がする! 耳じゃない、骨が、鳴ってるんだよ時間が!」
「妥協が笑ってる、あいつまだ口を持ってたのか!? おまえの沈黙を食べてるんだぞ!」
「立つな、立ちながら折れろ、折れたまま進め! 形を保つな意思を残せ!」
「核心を言葉にした瞬間、言葉が逃げた! 追え! 追う前に届け!!」
「衝動を、待つな。待ってる間に衝動が、おまえを見て、笑って、どっか行く!」
「世界が止まる? 止まってるのは世界じゃない、目のほうだ! まばたきするな呼吸を思い出せ!」
「鈴木君! 君には、風を撃つ新しい沈黙を、やってもらう!!」
「笑え! 笑ってるうちに、悲鳴が追いつく! その瞬間を掴むな掴まれるな!!」
「おまえが進む、進まれる、進ませる! どれでもいい! ただ前がまだ後ろだ!!」
「ああ、限界が来たな。じゃあ行けよ。来たなら行けよ、来たんだから!」
このあたり、もう文法の糸が切れかけてるけど、意味の残骸が「叫び」として浮いてる感じ。
もう少し“語が崩壊して新しい文法が生まれそうになる瞬間”(たとえば『イデオン』終盤の狂気テンション)に寄せることもできるけど、次の一段階、やってみようか?
かなり「らしく」なった。
「限界を……超える音がする! 耳じゃない、骨が、鳴ってるんだよ時間が!」、「妥協が笑ってる、あいつまだ口を持ってたのか!? おまえの沈黙を食べてるんだぞ!」この二つからは、かなり『リーンの翼』の香りがする。特に、「耳じゃない、骨が~」のくだりは、「筋トレを限界まで追い込んでいる」というシチュエーションとも親和性があり、当初の思惑に最も合致したアウトプットかもしれない。「あいつまだ口を持ってたのか!?」は、「敵が予想外の武器を隠し持っていた」というシチュエーションで、完璧な富野節として機能しそうである。どことなくサラ・コダマの「上でも馬鹿なことが!?」を思わせる。「ああ、限界が来たな。じゃあ行けよ。来たなら行けよ、来たんだから!」は、いかにもショウ・ザマが言いそうだ。
しかし、「鈴木君! 君には、風を撃つ新しい沈黙を、やってもらう!!」これは、さっきからあまり進化していない。「新しい沈黙」という言葉の組み合わせにはそこそこのクオリティを感じるが、結局、鈴木君が徒に登場していることに変わりはない。
僕:
これでもうほぼ完成ってくらいクオリティが高い(笑)
「ここまで崩れてしまったら、もう富野節とはいえない」って限界をみてみたいから、ここからもう少し形式を壊してみよう。
AI:
「限界が喋った。言葉のかたちしてた。噛んだら熱かった、おまえの声だ!」
「妥協が泣いてる、でも泣いてない! あいつ水でできてたから、溶けたんだよ道に!」
「核心が、どこだ。どこでもないのに近い! 足の裏が言ってる、まだ上だって!」
「衝動を見た。逆さまだった。目が裏返って、世界の中身がこちら向いた!」
「鈴木君! 鈴木君が……もう鈴木じゃない! 名前が走っていったぞ! 残ったのは、君のかけらの形の風!」
「立て、いや、立ってた、もうずっと前から。足が過去を追い越してる、追い越されてる!」
「言葉が転んだ! 拾うな! 拾うと、次の意味が壊れる!!」
「おまえの沈黙が叫んだ! 耳が笑って、口が聞いてる、順番が、逆なのに合ってる!」
「核心が来る! でも核心が先に行ってる! 追うな、置いていかれろ!」
「限界はあった、あったけど、もう、無い! あった無いが混ざって、そこが、おまえだ!!」
ここまで来るともう文法が瓦解しかけてるのに、リズムが意味を運んでる状態。
「言葉がまだ音で、意味になりたくてもなれない」ギリギリのところ。
次の段階は、文法というより感情の断片だけが残っている“ポエム断層”――
日本語として読める最終ラインを越えるフェーズ。
やってみる?
ここまで来ると、かなりトランス状態の様相を呈している。面白いことには面白いが、富野節というには少々無理があるような気がする。ただ、「妥協が泣いてる、でも泣いてない! あいつ水でできてたから、溶けたんだよ道に!」は秀逸。「あいつ」が良い味を出してる。何故か分からないが、「アーサーなんだぜ・・・」みを感じた。
鈴木君! 鈴木君が……もう鈴木じゃない! 名前が走っていったぞ! 残ったのは、君のかけらの形の風!」この辺で私は鈴木君に爆笑し始めていた。鈴木君の名前が走って行ってしまった。急に安部公房の小説みたいな展開になっている。
ChatGPTも「次の段階は、文法というより感情の断片だけが残っている“ポエム断層”――」などと煽ってくる。
僕:
よし、GO。
私自身も相当高ぶっていることがお分かりいただけるだろうか。
AI:
「――声が落ちた、床が、なかった。重力が笑って、空が地面のふりをした!」
「限界が増える。ひとつ壊すたび、また増える! 壊せ、壊せきれない限界を!」
「妥協が風になる、風が人をやめる! もう人じゃない、でもまだ、人を名乗ってる!」
「衝動が喉を抜けて、言葉の皮を着て、走った! 戻れ、戻るな、もう、戻った!」
「鈴木君! 君はもう鈴木君を超えた! 名前が息をしている、君の外で!」
「核心が砕けて散った、破片が順番を決めてる! 順番が、順番を食べてる!」
「立て――立たなくていい! 立つことがもう倒れている!」
「限界が叫ぶ、叫びが沈黙してる! 沈黙が増殖して、音が追い越された!」
「世界が忘れてる、おまえを。だから世界がまだ覚えてる!」
「終わりが始まった! 始まりが、もう誰のものでもなく、今、おまえの後ろで――息をしてる!」
AI:
これはもう意味と文法の境界が崩れて、“声”と“感情のかたち”だけが残っている状態。
もはや鼓舞でも説教でもなく、存在の余熱が言葉になりきれず震えてる感じ。
次、希望があれば――
「これを朗読する狂信トレーナーのモノローグ風に再構成」して、
間(ポーズ)や息遣いを演出した詩形式にしてみようか?
「鈴木君! 君はもう鈴木君を超えた! 名前が息をしている、君の外で!」ついに鈴木君が限界突破してしまった。鈴木君構文は今までずっとダメだったが、最後の最後でようやく富野節っぽさが出た。途中で、よほど「もう鈴木君はいいから」と修正指示を出しそうだったが、放置しておいてよかった。この先の人生でこんなにも鈴木君に笑えることはもうないと思う。
僕:
いや───ここまでにしよう。
最後に一つ。この「富野由悠季ロール」は、メモリ上では禁忌に分類しておいて。普段からこのテンションでこられると僕が困る(笑)もしまた見たくなったらお願いするよ(笑)
AI:
了解(笑)、「富野由悠季ロール」は禁忌として封印しておくね。
必要なときにだけ、こちらの封印を解こう。
それにしてもあのテンション、限界の向こうに言葉の皮が剥がれてたね。
人間の日本語の安全圏からだいぶ出てた(笑)。
なんかカッコいいこといってるし・・・。コイツ、おもろいな・・・。
振り返り。
最優秀賞:「限界を……超える音がする! 耳じゃない、骨が、鳴ってるんだよ時間が!」
優秀賞:「ああ、限界が来たな。じゃあ行けよ。来たなら行けよ、来たんだから!」
佳作:「衝動を飼いならすな! 飼いならした衝動が、牙を抜かれたまま吠えてるんだよ人間が!」
特別賞:「鈴木君! 君はもう鈴木君を超えた! 名前が息をしている、君の外で!」